上島春彦・遠山純生『60年代アメリカ映画』

bibid:02010381 エスクァイアマガジンジャパン ISBN:4872950763

俺たちに明日はない』の1967年からニューシネマ革命がはじまった、というような史観ではなく、1960年代の10年間を射程にして、「赤狩り」映画人の復権、ヘイズコードの撤廃、暴力描写の発展など、それぞれの論点からアメリカ映画界の変容を取り上げた10本の論考を収録。著者のひとり、上島春彦は同じ叢書の『フィルム・ノワールの光と影』ISBN:4872950658 での論考も良かった気がするので読んでみた。

全体的に文章が研究論文調で堅苦しいのと、こちらが類書を読んでいないせいでどの程度が目新しい見解なのかよくわからない、というのはあるけれど、興味深く読めるところが多かった。

個人的に納得したのは、「それは『サイコ』からはじまった」(上島春彦)での、1960年の『サイコ』とそれ以前の『黒い罠』(1957)を並べて(どちらもジャネット・リーが襲われる筋書きなのが共通する)、犯罪や暴力を雰囲気で表現するフィルム・ノワールの時代から、それらを直接描写するショッカー/ホラーの時代への移行を指摘しているところ。『キッスで殺せ』を先駆として、『博士の異常な愛情』や『鳥』、『猿の惑星』などで開花する「世界滅亡」描写に注目した「そして誰もいなくなった−−人類滅亡の唄」という論考も興味深かった。

紹介されていて見てみたいと思った作品は、イヴリン・ウォー原作(『囁きの霊園』)の『ラブド・ワン』と、ロバート・ロッセン監督の『リリス』。後者は出演俳優がウォーレン・ベイティジーン・セバーグジーン・ハックマンと、『勝手にしやがれ』と『俺たちに明日はない』の架け橋のように見える。

ところで、本書の冒頭に当時の代表的な映画のポスターの図版が収録されているのだけど、一番作品を見てみたいとつい思ってしまったのは『ロリータ』(スタンリー・キューブリック監督)だった。というかこれは現代では無理じゃないかと思う。