ジーン・ウルフ『ケルベロス第五の首』

bibid:02461568 The Fifth Head of Cerberus (1972) / 柳下毅一郎訳 / 国書刊行会 ISBN:4336045666

面白く読めたし、凄い作品なのだろうと思うけれど、この手の文学的に書かれたSF小説を読むとどうも、これを遠い異星というSF的な舞台設定でやる必要はあったんだろうかと思ってしまう。レムの『ソラリス』やル=グィンの『闇の左手』を読んだときも似たようなことを感じた。(そういう有名作しか読んでいない程度なので偉そうなことは言えないのだけれど)

SFの道具立て自体にあまり愛着がないと、それを文学的に高めようとする試みに共感しにくいということかもしれないし、単に星間旅行の可能性を描くことが今はガジェット以上の意味を失ってしまったということなのかもしれない。

第2部の「ある物語」は正直なところとっつきにくくて結構読み流してしまったので、もっと深く読み込める余地が色々とありそうだ。それでも第3部は謎解き的な読み方で楽しめる。(一応、殊能将之氏のネタばれ解説を覗いてみたら、似たような結論に達していた)

連想した作品は先に挙げた『ソラリス』と『闇の左手』(文化人類学系SFということで)、あと書法はスタージョンの『きみの血を』が少し似たことをやっていた気がする。

参考リンク(ネタばれ注意):

ホセ・カルロス・ソモサ『イデアの洞窟』

bibid:02463098 La caverna de las ideas (2000) / 風間賢二訳 / 文藝春秋 ISBN:4163231900

古代ギリシャを舞台にした探偵小説に、翻訳者が「直感隠喩法」なる怪しい文学理論にもとづいた電波読解の脚注を書き付けていく……というメタフィクション小説。予想通りナボコフの『青白い炎』の形式を下敷きにしたと思われる作品で、探偵小説仕立てなので読みやすいのはいいけれど、作中テキストがこの趣向のために用意されたようなものなのであまり面白くならない。

『ユリイカ』2004年8月号: 特集「文学賞 A to Z」

小説トリッパー』に続いて『ユリイカ』も文学賞特集。

看板の記事は大森望豊崎由美の『文学賞メッタ斬り!』コンビと島田雅彦による「Z文学賞」。対談の内容はそこそこ面白かったけれど(特に島田雅彦の発言は「一人称から三人称に転換するのは作家にとって難しい課題」という指摘など、鋭くて参考になりそうだった)、芥川賞の向こうを張った狭い範囲を何度語っても高が知れているので、新作小説全般の話も聞いてみたかった気もする。

栗原裕一郎(http://d.hatena.ne.jp/ykurihara/)、仲俣暁生(http://d.hatena.ne.jp/solar/)両氏の記事も掲載されていたりして、インターネット/はてな度が高い? 栗原氏の「新人賞選評一気読み」は、たぶん目を通してみたら読み物としてあまり面白くなかったんだろうなという感想。奥泉光選考委員は第5回新潮ミステリー倶楽部賞(2000年: 受賞作『オーデュボンの祈り』)では堂々たる選評を書いているけれど、それ以前はさんざん紆余曲折を経ていたことを知る。

他には、佐藤亜紀に「ファンタジーノベル大賞」を総括させるという、いわば猛犬を放って眺めるような企画もあり。

『オープニング・ナイト』

Opening Night (1978) / 監督: ジョン・カサヴェテス

冒頭から影を落とす死んだ少女の話は良くできていると思うけれど、劇中劇もので作中の演劇が見たいと思えないものだとつらいな。

前作の『こわれゆく女』もたしか精神不安定なジーナ・ローランズに周りの人が振り回される話だった気がする。これは観客が「こんなうざい女どうでもいいよ」と思ってしまうと成り立たない話ではないかと思った。